サマリー
資源循環・リサイクルシステムは、産業や製造活動において、廃棄物の抑制・削減、資源のリサイクル・再利用を目的としたビジネスモデルの転換を示す。廃棄物の削減・再利用は脱炭素戦略において重要な役割を担っていて、サーキュラーエコノミーへの移行が大手企業のみならず、サプライチェーン内の中小企業や消費者にも求められている。
幅広い業種の大手上場企業が、独自のノウハウやベンチャーとの提携で新商品・技術を開発。特にプラスチック代替製品、サステナブルな紙製品・繊維においては、グローバルリーディングカンパニーが資源循環・リサイクルシステムの事業化を加速。
中小企業にとっては、資源循環・リサイクルシステムへの参入は、他社との差別化または業務効率化を図る機会となる。環境省を中心に補助金が提供されており、本格的な普及促進を図っている。
目次
資源循環・リサイクルシステムとは?
国内の概況と取り組み
資源循環は中小企業にとってビジネスチャンスとなり得る
中小企業向けの補助金
1)資源循環・リサイクルシステムとは?
資源循環・リサイクルシステムは、廃棄物の抑制・削減、リサイクル・再利用、廃棄物からの再生可能エネルギーの生成など、温室効果ガスの排出削減に貢献できるため、日本の脱炭素戦略において重要な役割を担っている。実際、環境省は2050年までに廃棄物によるCO2排出ゼロを目指す上で、資源循環で約36%分の削減余地があると試算している。特に、地球温暖化対策として、3R(廃棄物等の発生抑制・循環資源の再使用・再生利用)+Renewable(バイオマス化・再生材利用等)を始めとするサーキュラーエコノミー(資源循環・リサイクルシステム)への移行に注目が集まっている。 日本では、産業や製造活動、人口密度、消費文化などにより、莫大な資源消費や廃棄物、炭素排出といった課題に直面している。持続不可能な消費と生産パターンは、環境悪化、資源枯渇、環境汚染を引き起こし、生態系、生物多様性、気候変動にマイナス影響が続いている。 持続可能な消費と生産に対する障壁には、認識不足、コストへの配慮、持続可能な代替品へのアクセス制限などがあり、一方で変化の原動力としては、規制の枠組み、技術の進歩、持続可能な製品やサービスに対する消費者の需要などが挙げられる。 図表1:環境省は2050年までに廃棄物によるCO2排出ゼロを目指す
出所:環境省
サーキュラーエコノミーの仕組みを取り入れることは、日本の企業にとって、資源効率化によるコスト削減、ブランド評価や顧客ロイヤルティの向上、新しい市場やビジネス機会へのアクセス、サプライチェーン・レジリエンスの強化など、多くのメリットをもたらす。サーキュラーエコノミーとは、廃棄物を最小限に抑え、資源効率を最大化し、製品や素材が再利用、修理、リサイクルされる閉ループシステムを構築することを目指すモデルである。サーキュラーエコノミーを実践することで、持続可能な開発に貢献し、環境問題を緩和することができる。日本においても廃棄物の発生、環境汚染、資源の枯渇を大幅に抑制することができる。 このように、閉ループシステムを採用し、持続可能な消費と生産のパターンを促進することで、サーキュラーエコノミーはバリューチェーン全体を通じて環境への影響を最小限に抑えることができる。また、サーキュラーエコノミーと他の環境優先課題との間には相乗効果が存在する。例えば、再生可能なエネルギー源やエネルギー効率の高い技術を採用することは、サーキュラーエコノミーの実践を補完することができ、持続可能な農業と循環型フードシステムは、資源効率を高め、環境への影響を低減することができる。 一方、サーキュラーエコノミーへの移行にはデメリットもいくつか存在する。例えば、高度な技術や適切なインフラが必要になり、それらが整備されていない地域では、サーキュラーエコノミーを実現することが困難だ。また、移行コストが高く、サーキュラーエコノミーを実現するためには、再利用やリサイクル、リファインなどの手段を使うが、従来の線形経済モデルよりも費用がかかる。加えて、製品のデザインを考慮する必要があり、製品を分解しやすくしたり、素材の種類を限定したりすることは、サーキュラーエコノミーへの移行期間を複雑化・長期化させるリスク要因となる。 また、日本におけるサーキュラーエコノミーへの移行には、消費者行動の変化、効果的なリバース・ロジスティクスシステムの確立、リサイクル素材の一貫した品質と安全基準の確保、変化に対する文化的抵抗の克服などが課題として考えられる。 以上のように、サーキュラーエコノミーにはメリットとデメリットがある。しかし、環境問題や資源問題に対応するためには、サーキュラーエコノミーへの移行は必要不可欠である。
図表2:リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへのロードマップ
2)国内の概況と取り組み
一般的には企業の資源循環・リサイクルシステムパフォーマンスを評価するための主要な指標や測定基準には、廃棄物削減目標、リサイクル含有率、エネルギー・資源効率測定基準、循環型製品設計原則などが考えられる。日本企業では、そういった資源循環・リサイクルシステムの進捗状況を追跡し報告するための測定システムが徐々に確立しつつある。サーキュラーエコノミーの実践は、国内外を問わず、企業の評判やブランド価値にプラスの影響を与え、顧客や投資家などのステークホルダーは、持続可能で責任ある実践へのコミットメントを示す企業への評価を高めており、競争力の強化や市場での差別化につながるだろう。
電子部品、自動車、建設、アパレルなど、特定のセクターが、資源集約的な性質と高い廃棄物発生量から、サーキュラーエコノミーへの取り組みの大きなポテンシャルを備えており、環境の改善と持続可能性を促進することができる。また、食品・農業、エネルギー、輸送、製造などの分野では、持続可能な消費と生産の実践を改善する大きな可能性がある。これらのセクターは、サーキュラーエコノミーアプローチ、エネルギー効率化対策、持続可能な調達、廃棄物削減戦略を採用することで多くのメリットを得ることができる。
サーキュラーエコノミーの例としては、廃棄物のリサイクルや回収、修理や再生による製品ライフサイクルの延長、シェアリングプラットフォームやプロダクト・アズ・ア・サービスなどの革新的なビジネスモデルなどが挙げられる。自社のバリューチェーン、製品のライフサイクル、廃棄物の流れを包括的に分析し、それぞれの状況に最も適したサーキュラーエコノミー戦略やビジネスモデルを特定する必要がある。
政府は2050年までのグリーン成長戦略では資源循環資源関連産業を成長が期待される14の重要分野の一つとして位置づけ、今後の取り組みも発表している。廃棄物の発生抑制や再利用・リサイクルの促進、バイオマスや廃棄物からのエネルギー生産など、2050年に向けた資源循環型社会の実現に貢献する産業として期待が高まっている。
具体的には、以下のような目標や取り組みが掲げられている。
廃棄物発生抑制:2025年までに、廃棄物発生量を2018年度比で10%削減する。
再利用・リサイクル:2025年までに、再利用・リサイクル率を2018年度比で10%向上させる。また、プラスチック等の循環率を2020年度比で25%向上させる。
バイオマス・廃棄物エネルギー:2030年までに、バイオマス・廃棄物エネルギーの導入量を約2倍に増やす。また、2050年までに、バイオマス・廃棄物エネルギーの導入量を約4倍に増やす。
これらの目標の実現を目指す企業の前向きな挑戦を後押しするため、予算、税制、金融、規制改革・標準化、国際連携などの政策ツールが盛り込まれている。
図表3:日本のグリーン成長戦略における資源循環関連産業の取り組み、および業界別の取組例
出所:環境省
さらに具体的な取り組みとして、①プラスチック等資源循環システム、②古紙利用製品・再生可能木材、③サステナブル繊維・アップサイクルへの注目度が上がっている。
①プラスチック等資源循環システム
「プラスチック等資源循環システム」はバイオプラスチックの採用による日本の化石燃料由来プラスチックへの依存度の低減、温室効果ガス排出量の削減、資源効率の促進、循環型経済の発展に貢献できる。さらに日本のプラスチック産業を多様化し、新たなビジネスチャンスを生み出す機会となる。具体的には生分解性の向上、リサイクルプロセスの強化、バイオベースの原料の開発など、バイオプラスチックやプラスチックリサイクルにおける技術が注目されている。なお、バイオプラスチックは2種類に分かれる。CO2を吸収して育つ植物のように、再生可能な有機資源由来の原料で作る「バイオマスプラスチック」と、役目を終えた後に新たな資源となるよう自然に還す「生分解性プラスチック」だ。いずれも炭素循環に貢献する素材だが、バイオマスプラスチックは、限られた資源である化石原料の消費を最小化できるため、持続可能な社会の実現に欠かせない技術だといえる。
②古紙利用製品・再生可能木材
日本では、消費者の環境意識の高まりから、持続可能な代替手段を求めるようになったため、再生紙・木材を使用した製品の市場需要が着実に高まっている。特に、パッケージ、文房具、印刷物など、特定の製品カテゴリーでは、強い需要が見られる。古紙・再生木材の利用製品の生産と販売は、企業にとって、持続可能な目標の達成、環境負荷の低減、ブランド評価の向上、環境意識の高い消費者へのアピールなど、さまざまなメリットをもたらすことができる。
③サステナブル繊維・アップサイクル
サステナブル繊維・アップサイクルは、廃棄物や不用品を加工して、付加価値の高い新たな商品を生み出すビジネステーマ。アップサイクルは様々な業種に広がり始めている。繊維産業における環境および社会的な懸念に対処する必要性を企業が認識し、サステナブル繊維やアップサイクルの採用が進んできている。革新的な素材、循環型サプライチェーンによる新事業のビジネス機会が拡大しつつある。サステイナブルファブリックとアップサイクルは、資源消費を最小限に抑え、廃棄物を転換し、バージン素材への依存を減らすことで、繊維産業が環境に与える影響を大幅に軽減することができる。また、材料の効率化や廃棄物の削減によるコスト削減にもつながる。
図表4:資源循環・リサイクルシステムの注目上場企業
3)資源循環は中小企業にとってビジネスチャンスとなり得る
資源循環・リサイクルシステム戦略の導入は、環境パフォーマンスを向上させ、希少資源への依存を減らし、持続可能性に対する進化する消費者の要求に応えることで、日本の中小企業の競争力と回復力を高めることができる。持続可能な製品に対する消費者の需要の高まり、循環型活動を支援する規制の枠組み、コスト削減や収益獲得の可能性などによって、日本の中小企業にとって大きな市場機会をもたらす。そのためにも、中小企業は、自らの価値を明確にするために、専門知識、地域ネットワーク、柔軟性、敏捷性など、特定の顧客セグメントや業界に合わせた循環型ソリューションを提供できる独自の個性・能力を考える必要があるだろう。 廃棄物管理、リサイクル、再生可能エネルギー、持続可能な製品設計などの特定の分野は、日本の中小企業が資源循環・リサイクルシステム市場に参入するためのチャンスとなり得る。中小企業は、その俊敏性とイノベーション能力を活用して、従来のバリューチェーンを変化させ、新しいマーケットニッチを創出することができる。 特に、イノベーションと製品・サービスデザインは、資源循環・リサイクルシステムにおいて重要な役割を果たす。中小企業は、持続可能で資源効率の高い製品の開発、設計や製造プロセスへの循環原則の取り込み、市場ニーズを満たす革新的なソリューションの探求に注力すべきである。資源循環・リサイクルシステム市場での成功には、戦略的計画、顧客中心主義、継続的イノベーション、強力なパートナーシップ、効果的なコミュニケーションなど、さまざまな要素の組み合わせが必要だ。 サーキュラーエコノミーをビジネスモデルに織り込んだ中小企業の成功事例
山翠舎:同社は環境に配慮した企業として、19年に長野県SDGs推進企業に第1期登録。古民家の解体から古木にまつわる一連のシステムを「古民家・古木サーキュラー・エコノミー」として体系化したことが評価され、2020年にはGOOD DESIGN賞を受賞。同社は入手ルートが明確、かつ高品質な古民家から得られる古い木材を「古木」と名付け、商標を取得している。事業としては古民家の解体から設計、施工までを一貫して引き受けており、古民家が取り壊され、廃棄されている材木をもったいないと考え、活用したいという想いから生まれた事業だ。同社はカフェや居酒屋、書店など幅広く手掛けている。それらは、いずれも古木が活かされた建築となっている。
会宝産業:石川県に所在する自動車リサイクル会社。中古部品の海外輸出を主な事業とし、世界約90カ国で中古部品の取り引きを実施している。取り組みの一つとして、途上国でのリサイクル工場の建設が挙げられる。途上国における廃車の不法投棄の問題に目を向け、リサイクル工場などを建設して解体技術を伝承している。同社は2017年に、国連開発計画(UNDP)が主導するビジネス行動要請(BCtA)への加盟が承認されており、これは日本の中小企業としては初の快挙である。
4)中小企業向けの補助金
中小企業が資源循環・リサイクルシステムへの取り組みに投資するためには、助成金、融資、投資機会などの金融資源へのアクセスが重要である。金融機関、政府プログラム、業界団体と連携することで、中小企業が必要な資金やサポートを利用することができる。具体的には、下記の補助金の利用が中小企業のサーキュラーエコノミーへの移行に向けて備えられている。
① 東京都 「サーキュラーエコノミーの実現に向けた社会実装化事業」 地域密着型のサーキュラーエコノミーの実現を目指す事業者等を公募し、その取組の社会実装化を支援する補助金。1事業につき補助対象経費の2分の1の範囲内、上限100万円まで補助する。
② 環境省 「脱炭素先行地域づくり・重点対策の全国実施の加速化」
地域脱炭素移行・再エネ推進交付金や防災拠点や避難施設となる公共施設への再生可能エネルギー設備等導入支援など、脱炭素先行地域づくりと脱炭素の基盤となる重点対策を加速化する補助金である。
③ 環境省 「サプライチェーン全体での脱炭素経営の実践普及・高度化」 中小企業をはじめとするサプライチェーン全体での脱炭素経営に向けた取組を支援する補助金。工場・事業場における先導的な脱炭素化取組やコールドチェーンを支える冷凍冷蔵機器の脱フロン・脱炭素化などが対象となる。
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